沙羅からのお便り 2015年6月24日

ある日の午後

沙羅の近くの歩道で雀の雛を拾った。

近くの巣から落ちたのだろうか?

3~40センチほどは飛べるようだ。

放っておいたら猫か百舌鳥に襲われるに違いないと連れて帰る。

ずいぶん昔、次男とインコを飼ったことがある。

繁殖率が高く、どんどん増えることと、家の中に生き物を飼うのを嫌う夫がいることもあって狭い庭に小鳥小屋を造った。

広さ畳半帖弱、高さ1、5メートル程の小鳥小屋は親子共作でなかなかの出来栄えだった。

手乗りインコを育てたい子供の意向で餌付けをすることになった。

注射器の針部分が直径2.5ミリぐらいだったように覚えているが、その名も「育ての親」という餌やりの器具で餌を与える。
大きく口をあけて餌を待つ雛に根気よく繰り返し餌を与えるのだが、すぐにおなかをすかして鳴く叫ぶので、子供が学校から帰って交代するまで仕事にさしさわりがあって困ったものだ。

しばらくの間、小鳥が寝ている深夜に仕事をすることになった。

あのインコは驚くほどよく食べた。

しかしこの雀の雛は嘴をぐっと閉じたままで口を開けない。それなのに時々きれいな声でさえずる。
「食べないと死んじゃうよ」飯を磨り潰して与えようとしても、水を飲ませようとしても同様。
「飲まないと死んじゃうよ」の私の忠告は通じない。

沙羅でシャンソン教室を終えた土岐能子さんが教えてくれた。

口を大きく開けて誰よりも首を長く伸ばして餌を待つ雛に親鳥は餌を与えるの。生きていけない弱い子は巣から突き落とすそうよ、強い子だけが生き残るのよ。残酷ね、こんなにかわいいのに、可愛そう・・・」

私は親が探しているのではないかと思っていた。

「そうなの? あなたは見捨てられた子なの?」

沙羅の留守を頼んで、育て方を教えてもらおうと獣医さんを訪ねた。・・・休診・・・「ほんとに君は見捨てられたのかしらねぇ、明日の朝まで生きられるかな」私の掌の中で大型のカブトムシほどの雛が息づいている。

「飛んでいけるようになるといいねえ!駄目でも仕方ないか。この掌のなかにずっとだいていてあげるよ。夕食は天丼でも頼むから大丈夫」」

その日の夕刻、翌朝の獣医さんの診察時刻を待たず、雛は死んだ。さらに小さくなったように思える雛を樹木葬に臥す。

天丼はあまり美味しくなかった。

沙羅店主