沙羅からのお便り 2017年9月18日

夏のある日 山の小屋で

重なり合った落葉松の枝葉の向こうに青い空と白い雲が見える。永住を決めた近所の奥さんからいただいたブーゲンビリアの赤い花が、ベランダの白いテーブルと庭の緑に映えて美しい。赤い腹をした青い羽根の鳥が彼方から此方の枝へと遊んでいる。
ここは標高1400メートル、気温は19℃。ベランダはjひんやりとして涼やかです。
私は肩にストールをかけ、ひざ掛けをして、眼鏡を掛けて…。小さくて読みにくくなった文字、…本は変わっていない、私の目が古くなったのです…文庫本から目を離す。
部屋の中から夫が聴くジャズが聞こえる。ストールを胸の前で掻き合わせて、ガラスに映る自分の姿が可笑しい。

「ねえ、ね、わたし童話に出てくるネズミのおばあさんみたい?」
「よくお似合いですよ」夫の声、さらに「やや大きめですが」…嬉しくない。
こんなにのんびりできた夏休みは何年ぶりかしら。

息子は中国へ出張し、孫は中学生になっていろいろ忙しくなり、今年は一緒の休暇は無理かも、の気がしていたけれど、息子の妻は子供3人を連れて独りで大きなワンボックスカーを運転してこの小屋を訪ねてくれた。
孫たちと一緒の鱒のつかみ取りは面白かったし、久しぶりのゴーカードも面白かった。真夏だけ営業の湖畔の肉屋のコロッケの立ち食いもまあまあいけた。店の人とのジャンケンに勝つとおまけがつくソフトクリーム屋の遊び心も楽しい。

TVが「孫ブルー」というのを放映している。
「孫は疲れるから3時間ぐらいがちょうど良い」「お休みの間ずーっといるの、もうくたくた!!」私の周りには幸せの愚痴のような会話があふれている。それを今、社会問題のようにTVが大真面目に取り上げている。困ったものだ、の思い。子育てを終えて久しく縁がなかった幼な子が日に日に育ってゆくさまに驚き、困惑し、楽しくもあるけれど少々疲れる婆のひととときの会話が、「孫ブルー」という言葉でひとくくりされるのは困るなあ。

良いじゃないですか、痴話げんかみたいなものなのですから。

落葉松の枝葉の向こうの青い空と白い雲を眺めながらぶつぶつ独り言を言っていました。

 

沙羅店主